第002話 惑星ボイル
第一章 惑星ボイルへ
クォンデル・ラッシュアワーダは宇宙空間で眠り続ける。
乗って来た火の属性を持つ、ゴブリックの中でだ。
ZAC−O−Goblick(ゴブリック)──最下級の巨獣徒(きょじゅうと)だ。
巨獣徒とは4番の化物(ばけもの)クルムレピタークが所有している勢力の一部となっている生物兵器の名称だ。
その巨体から最もインパクトのある勢力とされている。
ゴブリックはGランクではあるが、山脈くらいならば、簡単に吹き飛ばせるほどの戦闘能力を有している。
三百四十五垓(さんびゃくよんじゅうごがい)体も個体がある事から雑魚キャラかと思われがちだが、ゴブリック一体がいれば、その辺の惑星くらいならば、簡単に支配できる。
所有者であるクルムレピタークの封印により、巨獣徒は、その戦闘力を買われ、様々な野望を持つ者達に利用されてきた。
そのため、数々の伝説を残している。
ゴブリックは使い勝手も良く、巨獣徒の中では、最も利用者が多く、その分だけ伝説も多く残してきている。
ゴブリックを笑う者はゴブリックに泣くと言われる事もあり、最下級だと馬鹿にしている上級の巨獣徒のブレインパイロット(BP)達は、ゴブリックの乗り手達にしてやられる事も珍しくなかった。
大事にのりこなせば、巨獣徒最強の戦力となることも不可能な話ではない。
クォンデルが目指すのは、ゴブリックではなく、魔女と呼ばれた三姉妹(四姉妹)レリラル達が求めていた、謎の巨獣徒エルフェリアだ。
だが、それまでは、このゴブリックを使いこなせるようになる事が第一の目標となる。
ゴブリックを強奪して、宇宙空間に逃げたは良いが、目的地が見つからない。
このまま、元々住んでいた星に戻れば、レリラル達に殺される可能性が高い。
せっかく、ナシェルにより、一度失った命を取り戻し、トリプルやクアドラプル達にレリラルの呪縛を断ち切ってもらえたのに、戻って殺されるのでは意味がない。
故郷に戻っても良い思い出は少ないが、それでも、生まれ育った星に戻りたいという気持ちはいくらかある。
それには、まず、エルフェリアを手に入れる事が先決だ。
エルフェリア無くして、レリラル達に立ち向かう事などできはしない。
だが、そもそも、エルフェリアというのが何なのかさえもわかっていない。
恐らくは巨獣徒であるという事。
レリラルが戦力として欲しがっていたという事くらいしかわかっていない。
それ以外の情報は影も形もない状態。
それは、砂浜に隠れた一粒の砂金を探すようなもの──いや、それよりも難しいかもしれない事ではある。
だが、それ無くしてクォンデルに未来はない。
彼の中に流れる伝説の勇者、芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)としての資質がそう告げている。
クォンデルは元々、小心者であり、言われた事以外はできない人間だったが、レリラルの手により、吟侍としての素質をほんのわずかに埋め込まれた。
そのわずかな資質のおかげで、今のところ何とか生き延びる事が出来てはいるが、クォンデル本来の資質と反発しあっていて、吟侍としての特性が完全な形で、活かされていない。
どこか、欠落していて、その部分が、常に彼にピンチを運んで来ていた。
言ってみれば、三輪車にスポーツカーのエンジンを搭載しているような状態だった。
少しずつ吟侍としての特性に慣れてきてはいるものの、使いこなしているというにはまだまだ、遥かに遠い状態だった。
パラサイトルームカプセル(PRC)のデータベースで、この辺りの宇宙空間の歴史を探ってみる。
それで、巨獣徒に関わる情報を得ようと考えたのだ。
検索したところ、この辺りではゴブリックの伝説が少し残るだけで、他の巨獣徒に関する情報はなかった。
場合によっては、ゴブリックからより上位の巨獣徒に乗り換えることも考えたのだが、やはり、圧倒的に数の多い、ゴブリックの情報は出やすいが、他の巨獣徒の情報は逆に出てこなかった。
情報として無いだけで、上位の巨獣徒が隠されているという事も考えられるが、ゴブリックや一度、見ただけではあるが、トリプルが操獣していたBOS−S−Belialevy(ベリアルヴィ)の体長は4、50メートル以上はあった。
これだけの大きさのものを隠すには無理がある。
ある程度文明の栄えた人類が住む星ではだいたい見つかってしまうだろう。
探査能力の優れた人間であれば、もしかしたらという可能性も考えられるが、思考力の乏しいクォンデルが見つけられる可能性は皆無に等しいだろう。
となれば、比較的見つけやすいゴブリックの取り合いという事になる。
ゴブリックと一口に言ってもピンからキリまであり、ゴブリックの熟練度によって、戦闘能力は大きく異なる。
巨獣徒はカスタマイズも可能なので、同じゴブリックでも外見の異なるタイプは数多く存在する。
だが、クォンデルとしては、同じゴブリックであるのであれば、命からがら逃げてきたパートナーとも言える、現在乗っている赤い眼のゴブリックのまま戦いたいという気持ちの方が強かった。
彼が助かったのはこのゴブリックだったからだとも言える。
火の属性のこのゴブリックでなければ、水の属性のゴブリックとの反発で宇宙に逃げ出す事も出来なかっただろうし、その前に、悪党達を焼き払えなかっただろう。
被害者たちも死なせてしまい、胸が痛いが、あの時の彼にはそれが精一杯だったのだ。
死なせてしまった人たちの分も、簡単な人生を歩んではいけない──何か大きな事をやり遂げないと自分はただの人殺しになってしまう。
その気持ちが強く、彼を動かしていた。
今までの彼であれば、面倒臭いことからは全て逃げ出し、ひっそりと隠れて生活していただろう。
だが、今は吟侍としての要素がそれを許してくれなかった。
もうお前にはつまらない人生は歩ませないと心の内側から脅迫されているような気分だった。
だから、クォンデルは、前に進もうと考えていた。
これからどうするか?
何をしたら良い?
指示待ちだった自分からは考えられないくらい試行錯誤を繰り返していた。
悩みに悩んで、三択まで絞り、それからまもなく、次の目的地となる星を決めた。
「タイル銀河の惑星ボイルか……ゴブリックの伝説がいくつか残っている星……どんな星なんだろう……」
クォンデルはゴブリックの光学迷彩機能を使い、姿を消して惑星ボイルの地に降り立った。
光学迷彩と言ってもいつまでも続くわけではなく、惑星ボイルの地に着いてまもなく、その機能は消えた。
この機能はカスタマイズされていた時についていた、一時的に身を隠す一回こっきりのものだった。
何とか機能が消える前に、ゴブリックを湖に隠す事が出来た。
隠すといっても、額から上の部分は水面から上に出ているが、その部分は枯れ木等を使ってうまく隠した。
このゴブリックは火の属性なので、水との相性は良くないが、贅沢は言っていられない。
適当な隠し場所が他に見当たらないので、やむを得ずといった処置だった。
クォンデルはPRCに乗って、その場所を離れた。
まずは情報を得なくてはならない。
人里離れたこの場所より人が生活しているところまで進んで、何等かの情報を得て来ようと考えた。
出来ればエルフェリアの情報をつかみたいところだが、そんなに都合よく、その情報にたどり着くわけはない。
まずは、巨獣徒の事をよく調べていこうと考えた。
まだ、ゴブリックの事さえ、よくわかっていないのだから。
第二章 町での出会い
クォンデルはPRCの惑星言語情報を調べ、惑星ボイル語を生体インストールした。
これにより、クォンデルは惑星ボイルの言葉を離す事と理解することが出来るようになった。
惑星ボイル語の特徴は普通の人が聞いたら、三重音声のように聞こえ、聞き取りづらい事で知られているらしく、生体インストール無しに会話は成り立たなかった。
生身でこの星に来ていたら途方に暮れていただろう。
そういう意味でもゴブリックに乗って来て良かったと思うのだった。
クォンデルはラリーという町に来ていた。
この町の人間の見た目は、クォンデルとそう変わりなかった。
言語だけが違っているという感じだった。
街中での会話を聞いていて、生活環境はクォンデルが居た星とそう変わりないという事が解ってきた。
情報を得るにはまず、食堂にでも入ろうと判断し、レストランチースというところに入った。
チースとはこの星の地方の言葉で【いらっしゃいませ】を意味する言葉らしい。
この星というひとくくりで考えるのではなく、この星にもそれぞれ地方というものがあり、その土地それぞれの文化が存在する。
人に興味を持たない生活をしていたクォンデルにとって、このなんでもない情報を知る事も驚きの一つではあった。
一体何をしているのだろう?という気持ちもあるが、吟侍の要素がすぐに答えをくれる。
普段から、いろんなところにアンテナを張っていたら、その内のいくつかは、急なトラブルなどで思いがけない助けになる事もあるのだという事が解った。
本当にそうなのか?という気持ちと納得する気持ちの両方がある奇妙な感覚だった。
その行動に反対する気持ちも少しはあるが、今は他にすることがないので、黙って情報収集につとめるのだった。
だが、それをやっていく内に、発想力がある人間というのは普段、こういう事をやっているからいろいろと思いつくんだなという事が解ってきた。
今まで見聞きしてきた情報が他の事で思わないところで役に立った時、なるほどなと思えてくる。
こうして来なかったから、自分は今まで、不器用な生き方しかできなかったんだなと思った。
考え方は解ってきたが、今のクォンデルはこの考え方をするようになって日が浅い。
この情報収集の積み重ねが重なれば重なる程、人生の役に立つことも多くなってくるのだが、まだ、役に立つレベルには程遠かった。
だが、やらないよりはやった方が良い。
やり続ける限り、例え、少しずつでも、スキルアップしているのだから。
情報収集を続けるクォンデルは気になる三人組の会話に聞き耳を立てるようになっていった。
なんで気になったかと言うと三人組の内の一人がクォンデル好みの女の子だったからだという理由であったのだが、その子が困っているような顔で必死に他の二人に訴えかけていたので余計気になったのだ。
会話から、気になった女の子の名前は、レェバ。
他の二人がストマとツクという男だった。
どうやら、ストマとツクという男達が犯罪計画を立てていて、レェバという子が止めようとしているという事が解った。
三人は幼馴染という関係だろう。
三人の会話からいろいろ解ってくる事もあった。
まず、この惑星ボイルの通常兵器としての巨獣徒は存在しないという事。
巨獣徒はあくまでも、伝説に残っているだけで、一部の地方では神のように信仰の対象となっているらしい。
神殿には、巨獣徒──恐らくはゴブリックだろうが、眠っている可能性があるが、住民達はその情報は持っていない。
神殿は政府の管轄で、一般人の立ち入りは禁止されているようだ。
通常兵器として、使用されているのは、マシンクリーチャーと呼ばれる半分機械半分生命体の兵器らしい。
元々は巨獣徒を元に考え出されたものらしいが、動力となる部分が、食料を食べて栄養を取るという事になっているらしい。
だけど、そのシステムは神を冒涜する行為とされており、巨獣徒──この星ではご神体と呼ばれている存在の天罰が下るとされているらしい。
ストマとツクはマシンクリーチャーを強奪し、その勢いで、神殿に侵入し、ご神体を奪って逃げるという計画を立てていた。
それは射殺もやむなしの犯罪行為とされているらしい。
マシンクリーチャーの大きさは大きいものでも20メートルくらいらしいから、ゴブリックの半分以下の全長となる。
後、わかった事は、ストマとツクは元々から惑星ボイルに住む生粋のボイル人なのだが、レェバの両親は他の星からの移住者らしい。
そのせいで、レェバはボイル人達から迫害を受けており、それをストマとツクが今までかばってきたらしい。
ストマとツクは同じボイル人として、レェバを迫害して来た人間達を毛嫌いしており、その人間達の多くが、神殿を管理する側の政府関係の人間達の子息達らしい。
今回の計画もそういう人間達に一泡吹かせてやろうと思って計画した事らしい。
レェバにとってはそんなに危ない事はやめて欲しいと思っているのだが、政府に対して反感を持っているストマとツクは自分達だけでもやるという勢いだった。
状況はだいたい解ったが、だからといって、クォンデルに何かできるかと言うと何もない。
聞き耳を立てていただけであって、この三人と知り合いという訳でもないし、話しに加わる理由が無い。
だが、レェバのために何かをしてあげたいという気持ちは何となくだが、少し理解できる。
ストマとツクが犯罪行為をするという事はレェバを悲しませる事だというのは解るが止める理由も思いつかない。
吟侍としての要素が、クォンデルでさえ、会話が聞き取れていたのだから、政府の人間がこの情報を得ているという可能性もあることを告げている。
だとしたら、犯罪を犯したとたんに不穏分子として、即座に射殺という事も考えられる。
何かしてやりたいという気持ちと何もできないという気持ちがせめぎあう。
まただ。
また、クォンデルと吟侍の意識の食い違いが反発しあう。
吟侍の行動力をクォンデルの臆病な心がブレーキをかけている。
また、空回りしてしまうのか──
だが、時は待ってくれない。
ストマとツクがレストランを出て行った。
慌ててレェバが追うが、二人は振り切り、去っていった。
崩れ落ちるレェバ。
そんな彼女に、クォンデルは
「どうかした?」
と声をかけた。
どうかした?と聞いてみたのは事情を知っていたら政府側のスパイだと勘違いされるかも知れないと判断して、とぼけたのだ。
そのとぼけた反応もそうだが、声をかけたという自分の行動にクォンデルは驚いた。
今までの自分であれば、まず動かなかっただろう。
動かず何もできず、ただ静観していただけだろう。
だが、動いた。
これこそが吟侍の行動力なのだ。
本来であれば、もっとスマートに動けるかも知れない。
それにブレーキをかけているのがクォンデルの精神だというのが少々情けないのではあるが。
レェバは、
「お願い……助けて……」
と声を絞り出した。
クォンデルは取り乱しているレェバが少し落ち着くのを待って事情を聞く事にしたが、落ち着いてきた彼女は事情を話さない。
それも当然である。
突然現れた、正体のわからない男に自分の抱えている問題を話せるわけがない。
特に、幼馴染が犯罪行為をしようとしているなどとは口が裂けても言えない。
助けて欲しいけど、助ける内容を話すことができない。
そんな状態だった。
クォンデルの方も事情は解ってますとは言えない。
言ったらその瞬間に彼女の信用を無くすだろうからだ。
時間だけが過ぎていく。
こうしている内にもストマとツクは犯罪行為をするために、マシンクリーチャーの強奪行為をしているだろう。
彼らに残された時間は少ない。
クォンデルが何らかの手助けをしないと恐らくは、あの二人は政府の手によって射殺されてしまうだろう。
クォンデルの人生においても理不尽な事は数多くあった。
だが、その全てに対して彼は目をつぶってきた。
無かった事にしてきた。
関わらないようにしてきた。
だから、こんな時に何をしたらいいのか、わからない。
答えが見つからない。
どこかで吟侍としての要素が答えを勝手に出してくれるのではないかと期待している他力本願な自分がいる。
だが、いくら吟侍としての要素が優秀でも素材が揃わないと何もできない。
その素材とは普段の情報収集だ。
その情報収集が吟侍に的確な答えを導き出すヒントをくれる。
いくら吟侍でも生まれたばかりの状態では何もできない。
それこそ、最強の化物とされるクアンスティータでもない限り不可能な話だった。
手をこまねいていると、このままでは何も進展しないと判断したレェバの方が事情を話してくれた。
黙っていても殺されるのであれば、万に一つの可能性を信じて、クォンデルに事情を話す事にしたのだ。
結局、自分からは何もできなかったが、きっかけをくれた彼女のおかげで、クォンデルに行動する理由が出来た。
自分もボイル人ではないと伝えてから、彼女を連れて、PRCに乗り込み、行方をくらました二人を探した。
二人はなかなか見つからないが、その間に、彼女の口から、情報をいくつか聞くことはできた。
彼女達三人は社会的弱者に辺り、三人とも身寄りがないとの事だった。
彼女にとっては、ストマとツクは家族であり、失う訳にはいかないかけがえのない存在であるという事だった。
自分はその中には決して入っていけないという深いつながりを知ったクォンデルだが、だからと言って、途中で投げ出す訳にもいかない。
乗りかかった船は最後まで付き合うとして、彼女を助ける事に決めた。
PRCは電波を惑星ボイルの設定に合わせ、ラジオをBGM代わりに流していたが、そのラジオのニュースで、近くでマシンクリーチャー二体の強奪事件が起きたという事を知った。
強奪事件が起きた以上、PRCで行動していても二人を止められないと判断したクォンデルはまっすぐ、ゴブリックを隠していた湖に向かった。
ゴブリック無しでは解決しないと判断したからだ。
マシンクリーチャーをストマとツクが手に入れた以上、神殿に行くのは時間の問題。
後は時間との勝負だった。
恐らく、政府はストマとツクが使用しているマシンクリーチャーの何倍もの兵力を用意しているだろう。
だとすれば、多勢に無勢──彼らはすぐに助けなければ、政府の餌食になってしまうだろう。
「あの……神殿は逆方向……」
と聞く彼女に
「ご神体……なんだろ?それ、俺、持ってる。だから、それで二人を助ける」
と答えた。
「か、神様?……なんですか?」
と聞く彼女に、
「そうだと嬉しいけどね……」
と言って答えた。
クォンデル自身もこんな気の利いた答えが出せるとは思ってもみなかった。
クォンデルは急いで湖に向かい、そのまま、ゴブリックに乗り込んだ。
神様と言うには不細工な容姿のゴブリックではあるが、それでも、この惑星ボイルにとっては神と崇められる存在だ。
だとしたら、神様として、悲しんでいる住民の願いを聞いてやらないといけないなと思った。
慣れた手つきで、ゴブリックを起動するクォンデル。
レェバを下している時間も惜しかったので、彼女もいっしょに搭乗させている。
ブォンと音が鳴りゴブリックの赤い目が光る。
ザザザザザ……
と音を立て、湖のそこから、ゴブリックの本体が顔を出す。
「行くぞ、神殿はあっちだな」
とレェバに聞く。
「あ、はい。お願いします」
願いを込めて彼女は答える。
ドンドンドンドンと地響きを立てて、ゴブリックが走り出す。
目指すは神殿。
目的はレェバの幼馴染二人の救出だ。
町では突然現れた巨獣徒にパニックになっていた。
「おお、神よ」
「あぁ、神様……」
と祈りだすものが続出した。
だが、そんなのに構ってなどいられない。
とにかく急いでいるのだ。
急がねば、二人は殺されてしまう。
クォンデルは可能な限り急いで、神殿を目指した。
第三章 決断
神殿に着くと、既に交戦中だった。
ストマとツクの乗っていると思われるマシンクリーチャーは40体を越すマシンクリーチャーに囲まれ、ほとんどハチの巣状態だった。
それでも、何とか、マシンクリーチャーの動力だけは確保していて、何とか起動しているが、中にいる二人も負傷している事が容易に想像がついた。
「い、いやぁぁぁぁぁあぁぁ……」
叫びだすレェバ。
クォンデルは、
「まだだ、まだ、死んだと決まった訳じゃない。諦めるな」
と口にした。
相変わらずの発言に自分でも戸惑っているのが解る。
解るが、戸惑っていてもいられない。
何とか、自分をコントロールして、最善の結果を導きださなければならなかった。
「なんだあれは?」
「ご、ご神体だ」
「まずいぞ、何とかしろ」
と政府の人間が口々に叫ぶ。
どうやら、ご神体がゴブリックであるというのはほぼ間違いないだろう。
クォンデルは考える。
ここで、政府の人間を攻撃して良いのだろうか?
攻撃してしまうと、一緒に乗っているレェバも反乱分子と判断されて、この星での生活はできなくなる。
ストマもツクもすでに犯罪行為を行っているからこの星での居場所が無い。
捕まれば処刑という運命が待っている。
それだけ、ご神体、ゴブリックに対する犯罪行為は重罪とされている。
ならば、どうする?
三人をつれてこの星を出るか?
だが、クォンデルに三人を養う甲斐性はない。
一人で逃げて来た身だ。
自分自身だけでも次に何をしたらいいのか見えていない。
そんな自分に三人の面倒を見る資格があるとは到底思えない。
だが、ストマとツクはすでに取り返しがつかない状態。
二人を連れて行かなければ、ここでは生きていけない。
すると残ったレェバはたった一人になってしまう。
だとすれば──と判断し、クォンデルはマシンクリーチャーに攻撃を仕掛けた。
仕掛けたと言っても軽く振り払っただけ──
本人はそのつもりだった。
だが、ゴブリックのパワーを軽く見過ぎていた。
ゴブリックの一なぎで、マシンクリーチャーは吹き飛び、全て行動不能となった。
幸い、死人は出ていなかったようだが、一つ間違えばまた、人殺しをしていた所だった。
クォンデルは自分の行動に恐怖した。
「このままじゃ埒があかん」
「ご神体だ。ご神体を持ってこい」
との政府関係者の声があがった。
まずい。
このままでは、ゴブリックを持ってこられる。
向こうもゴブリックなら条件は一緒だ。
こちらがやられるという可能性もある。
政府関係者にゴブリックに乗せる訳にはいかないとして、追おうとするクォンデルだったが、それをレェバが止めた。
「──お願いします。二人を……二人を助けて下さい」
と言った。
このままではゴブリックを起動されてしまう。
だが、このまま放っておいたら、ストマとツクは間違いなく死ぬだろう。
半壊したマシンクリーチャーの上からでも解る。
深刻な状況であるというのが。
一瞬迷ったが、クォンデルはレェバの言葉を聞き入れ、マシンクリーチャーを解体し、中から、ストマとツクを回収した。
ゴブリックに搭載されている簡易システムを利用し、ストマとツクの生体データをチェックすると、二人は瀕死の状態で、肉体の破損部分を片方に移植すれば、一人は助かるかも知れないと出た。
どちらか片方しか助けられないという結果をクォンデルの背後からレェバも確認した。
「そ、そんなの……どちらも……選べない……」
レェバはつぶやく。
彼女にとって二人とも代えがたい家族。
どちらを助けてどちらも助けられないという事は考えられない。
だが、こうやって黙っていたら、二人とも助からない。
迷っている時間さえ彼女には与えられないのだから。
泣きじゃくるレェバ。
半狂乱している。
吟侍であれば、どちらも助ける方法が思いつくかも知れない。
そう思って、意識を吟侍の要素にゆだねる。
すると、決してベストとは言えないがそれでも二人の命だけは助ける答えが思いついた。
人道的にどうなのかという問題もある。
だが、迷っている時間はない。
それしか二人とも助ける方法がないのだから。
クォンデルは深呼吸をして、レェバに説明する。
クォンデルの提案は二人の身体をこのゴブリックに取り込むというものだった。
ゴブリックは生体兵器であるため、生命体を自身の追加能力の補助として取り込む力が備わっている。
ゴブリックに取り込む事によって、二人の生体保護をする事が出来るというものだ。
だが、現状では一度、ゴブリックに取り込んだら、その後の分離は極めて難しいというものでもある。
という事は二度と人間としての生活はできないという事になるかも知れないのだ。
だが、彼女に答えを求めるが、彼女は答えを出せない。
その時、瀕死の二人が言ってきた。
ストマは、
「……や、やってくれ。俺たち……二人の片方でも……失うとレェバが悲しむ……というのであれば、……やって……くれ」
と言った。
ツクは
「……その代わり、レェバも……あんた……の冒険に連れ……てってくれ。ご神体……を動かすのがあんたの役目……なら、このご神体のそ……ばに彼女もお……いてくれ……」
と言った。
どうやら、ゴブリックとして、彼女のそばに居たいという意思のようだ。
彼女の答えは聞けなかったが、本人達の承諾を得た事で、クォンデルは決断、二人をゴブリックに取り込んだ。
クォンデルは、
「今は恨まれても仕方がないけど、まだ、分離が不可能と決まった訳じゃない。その……二人でその方法を探さないか?」
と言って、アプローチした。
レェバは、
「……はい……神様……」
と答えた。
思えば、人の心にここまで触れるような人生は今までなかった。
クォンデルは、人に感謝されるという事は気持ち良いことであるという事がこの時、初めて理解するのだった。
第四章 ゴブリックVSゴブリック
ストマとツクの救出に時間がかかり、政府関係者達によるご神体──ゴブリックの起動を許してしまった。
敵のゴブリックの数は二体。
つまり、一体である、クォンデル達にとっては不利な状況となった。
「神様……」
レェバが後部座席で、不安そうにクォンデルを呼ぶ。
彼女の中ではすでにクォンデルは神格化しているようだ。
男としては彼女の期待に応えてあげたいところだが、元はヘタレのクォンデルである――基本的に、何をどうすれば2対1の不利な条件で勝利出来るのか見当もつかない。
ただ、このピンチを切り抜けなければ明日はないのは確かだった。
クォンデルは無い知恵を絞って考える。
(ご神体って呼ばれているんだから多分、あの2体はろくにカスタマイズされていないはずだ。確証はないけど、多分……そう思う。それと、乗り慣れていないはずだ。だとしたら、俺の方が多少、有利なはず……)
彼の予想は半分、的中していた。
2体の内の1体に乗っているのは神官と呼ばれる存在で、形ばかりの使用者に過ぎなかった。
だが、もう一人は違っていた。
神殿にご神体として奉られているゴブリックではなく、政府にとって不都合な人間を始末する暗殺者だった。
そのため、見た目は地味だが、神官が乗っている着飾って派手な出で立ちになっているゴブリックよりも汚らしい印象のあるゴブリックの方が難敵だった。
ご神体ゴブリックは無様な立ち回りだったが、地味ゴブリックの動きは熟練者のものとなっている。
それは、戦いの素人であるクォンデルでもはっきり解るくらいの差だった。
ご神体ゴブリックは出鱈目な動きで、クォンデルのゴブリックに突っ込んで行ったり、よろけたりしているが、地味ゴブリックはクォンデルの動きをじっと窺っていた。
恐らく、こちらの隙を窺っているのだろう。
逆に、ご神体ゴブリックの無駄に派手な動きが地味ゴブリックの動きを邪魔していると言ってよかった。
クォンデルは考える――
ご神体ゴブリックを倒すのは簡単だ。
隙だらけの動きだから、クォンデルが神官のPRCに一撃を入れればそれで動きは止まる。
だが、問題はその後だ。
その時、地味ゴブリックの本格的な攻撃が始まる。
実力の差は歴然。
クォンデルの腕では、この地味ゴブリックの精密な動きについて行けない。
やられるのは時間の問題だろう。
奇抜さだ……
奇抜な動きで暗殺者の思考にない行動を取るんだ。
それしかない――と判断した。
クォンデルの赤ゴブリックはご神体ゴブリックを捕まえる。
倒すのではなく、捕まえた。
そして、ダンスでも踊るように、ご神体ゴブリックを振り回す。
神官の操獣スキルはクォンデルから見てもさらになっちゃいないものだ。
だとすれば、上手くすれば、なんとかなると考えた。
暗殺者の方も神官の死亡とご神体ゴブリックの破壊は避けたいところだった。
だから、地味ゴブリックの方が前に出て、とどめをご神体ゴブリックにまかそうとしていた。
だが、神官は自分の手柄を政府の偉いさん達にアピールする絶好の機会だと考え、自分が前に出るから、暗殺者の方はサポートに徹しろと命令していた。
雇われの身の暗殺者としては、ご主人様に逆らう事は出来ない。
もどかしく思いながらも神官に気を遣って動いていた。
神官の命やご神体ゴブリックの事を気にしないで戦うのであれば、とっくに決着はついていた。
暗殺者はクォンデルが素人だという事を見抜いていた。
だが、神官の存在が足手まといにしかなっていなかった。
この判断が、暗殺者最大のミスとなる。
赤ゴブリックはご神体ゴブリックを振り回し、その勢いで、地味ゴブリックの方に投げつけた。
暗殺者としては、ご神体ゴブリックを守らなくてはならない。
このままの勢いだと、ご神体ゴブリックは破壊されかねない。
地味ゴブリックは身体を張って、ご神体ゴブリックを受け止めた。
その衝撃で、暗殺者は一瞬、クラクラした。
その一瞬をクォンデルは見逃さなかった。
赤ゴブリックのファイヤーミックスレーザーが地味ゴブリックのPRCを焼き切る。
中の暗殺者は絶命。
クォンデルとしても生かしておけば、間違いなく暗殺者に殺されていただろう。
苦渋の決断だったが、迷っていたら、自分が同じ立場となっていた。
「うぉえっ……うぇ……えっ……うぉえっ……」
みっともなく嗚咽を漏らす。
殺さなければ殺されていたという状況に吐き気を止められなかったのだ。
その姿を見て、レェバは、
(神様も苦しんでいらっしゃるんだ……)
と思った。
神官は
「ひっ……ひぃぃぃ……」
と逃げ腰だった。
心のゆとりともなっていた暗殺者のサポートが得られなくなり、敵であるクォンデルの赤ゴブリックと一対一の状況になってしまったからだ。
ご神体として奉られている以上、負ける事は許されない。
だが、神官の腕では、クォンデルには敵わない。
絶体絶命に追い詰められるのは神官の方だった。
赤ゴブリックはど派手に飾られていたご神体ゴブリックの飾りを全て引きちぎった。
神官はたまらず、PRCで逃げ出す。
この瞬間、人々の崇拝の対象だったご神体の権威は失墜、地に落ちた。
「離れなくちゃ……ここから……離れなくちゃ……」
うわごとの様に、クォンデルがつぶやく。
この場に居たくないという気持ちが強かった。
とにかく、この場から逃げ去りたかった。
この惑星ボイルに知り合いは居ない。
ついさっき知り合ったレェバは後部座席に座っている。
レェバの家族二人は赤ゴブリックと同化した。
彼女には他に身よりが居ない。
つまり、この地に居座る理由は一切無かった。
ダダダダダダダダダ……
と、もの凄い轟音を立てて、赤ゴブリックは走り出す。
その姿はとても勝者とは思えなかった。
惨めな敗走者という方がしっくり来る。
だけど、レェバにとってはクォンデルはヒーローだった。
救い方は違ったが、彼は確かに、ストマとツクの命を助けてくれた。
彼女をひとりぼっちにしなかった。
彼女にとって、クォンデルは神様であり、ヒーローであり、勇者であり、信仰の対象となった。
彼女はクォンデルについていくと心に決めた。
人里離れた場所で一夜を過ごす、クォンデルとレェバ。
彼は彼女を求めた。
彼女は拒まなかった。
二人は寂しかった。
とにかく、お互いの繋がりが欲しかった。
それを確かめ合って二人は赤ゴブリックのPRCの中で眠りについた。
芦柄 吟侍であったならば、この程度の事は何という事でもなかっただろう。
だが、クォンデル・ラッシュアワーダという小さい人間にとっては、十大な事だったのだ。
大変だったのだ。
必死だったのだ。
世の中を変える程の大きな事をした訳ではない。
それでも、生きて帰るために、死にものぐるいだったのだ。
彼にとっては、天下を取ったのと同じ偉業を成し遂げた感覚を持っていた。
だから、自惚れたくなった。
愚かでも有頂天になって見たくなった。
不安だったから、繋がりを求めた。
一度に複数の感情が入り乱れる。
彼は眠る。
また、明日、次の戦いが待っているから。
今はただ、眠る。
疲れを癒すために。
好きな女の子の肌に触れながら――
第五章 レェバの死?
翌朝、日の光でクォンデルは起こされた。
レェバは既に起きていた。
日の光に照らされた彼女の肢体は女神を思わせる程、美しかった。
そんな彼女と昨夜、確かめ合ったんだ――
そんな事を思うと何だか、気恥ずかしくなってくる。
彼女はただ、ゴブリックに乗っているクォンデルを尊敬しているだけだ。
それは解っている。
ゴブリックから降りたら、何の魅力もないクォンデルにはふり向かないだろうことも解っている。
だけど、今は、心の不安をかき消す意味でも、ゴブリックに縋(すが)りたかった。
赤ゴブリックは弱い――
このままでは、同じゴブリックでも熟練度の高い相手にはやられてしまう。
そう考えるとまず、第一にゴブリックのカスタマイズをしようと思い立った。
だけど、どうすれば良いのか解らない。
なりゆきでゴブリックに乗っただけで、ゴブリックがどのようにして、スキルアップしていくのか、実はよく解っていない。
ストマとツクを吸収したという事から、外部から何かを取り込む事で何らかのスキルアップをするのは解ったが、具体的にどんな調達をすればいいのかが全くわからなかった。
だけど、今は少し、安心している。
行く道は険しいが、一人じゃない。
レェバというパートナーが隣にいる。
彼女は巨獣徒を操獣出来るわけではない。
戦闘力もない。
だけど、隣にいて安心する。
クォンデルが一度死ぬまでの、レリラル曰く、つまらない人生では一度も隣に居る人間は居なかった。
常に、もめ事を起こし、はじき出される人生だった。
だけど、彼女は違う。
レェバは、嫌がらせはしてこないし、彼を追い出そうとはしない。
自分を信頼してくれている――
それだけで、安心だった。
最初は顔が好みというだけの興味だけだったが、今は違う。
一緒に困難をくぐり抜けたという事で、吊り橋効果なのか、はっきり好きだと言える。
愛している……という言葉が合っているのかは解らないが、今は、ずっと彼女と一緒に居たいと思う。
一緒に安心出来る場所を探して、二人で静かに暮らしたいと思える自分が居る。
周りの人間全てが敵だった彼にとってはもの凄い変化である。
彼女にはストマとツクという大切な家族が居て、自分はその次かも知れない。
だけど、彼にとっては、まるで初恋の様に、彼女の事しか考えられなくなっている。
34歳のオッサンが何を言っているんだと思われるかも知れない。
だが、今は17歳の思春期の身体なのだ。
それで、何の不都合がある。
クォンデルはそう思った。
レェバのためならば、頑張れる――
彼はそう思える様になって来た。
そこから、彼は変わって行った。
積極的に行動するようになったし、色々考えるようになった。
レェバとの恋が彼を前向きな人間に変えていった。
最初は解らなかったゴブリックのカスタマイズも自分なりに研究し、少しずつ出来るようになっていった。
ゴブリックを吸収したい素材の元に運び、それで、吸収すれば良いのだが、それには少々コツのようなものがあって、最初は手間取っていたが、レェバの献身的なサポートもあり、すぐに出来るようになっていった。
弱かった赤ゴブリックもみるみるスキルアップしていった。
途中、別のゴブリック達との抗戦も何度かあったが、どんどん強くなっていった赤ゴブリックはその全てのゴブリックを退けていった。
自分は無敵――そう錯覚する事もしばしばあったが、レェバを見るとその気持ちを改め、自分はまだ、未熟――どんどん成長して行かなければ彼女と釣り合わないと謙虚に思うようになっていった。
レェバとの出逢いがどんどん、クォンデルの人間的成長を促していった。
冒険を始めたばかりの頃の彼とはまるで別人のように成長していった。
そんな幸せな二人だった。
だが、突然、別れはやってくる。
レェバと出会って、二ヶ月が経とうとしていたある日――
買い物に行ってくると言って出て行った彼女は戻らなかった。
帰りが遅いから心配になり、探しに出てしばらくすると彼女を見つける事が出来た。
出来たのだが、彼女は物言わぬ、冷たい骸となっていた。
「な……なん……で……?」
呆然となるクォンデル。
ゴブリック達には連勝し、順調に進んでいた筈なのに何故?
カスタマイズしているゴブリックの機能を使って、近くの防犯カメラをハッキングして、状況を調べた。
彼女の死因は通り魔による暴行が原因だった。
危ない薬でもやっているかのような情緒不安定な男が彼女に近づき、因縁をふっかけて彼女を暴行したシーンがカメラに収まっていた。
巨獣徒による戦死ではなく、暴漢による、暴行死――
何でこんなにあっさり――
途方に暮れるクォンデル。
自分を支えていたものが無くなり一気に自信喪失した。
しばらく呆然となる。
クォンデルはレェバの遺体をゴブリックに取り込んだ。
彼女はゴブリックの栄養として、これから生きていくんだと思いこむ事にした。
そこに、レェバを殺したと思われる人相の男が通りかかる。
彼女に因縁をふっかけた時と同様にラリっている印象だ。
「おい、てめぇ……何、見てんだこらっ……てめぇもぶちのめしてやろうかぁ……」
その男はクォンデルにも因縁をふっかける。
暴行の末、彼女が死んだとは夢にも思っていないようだ。
恐らくは、暴行した彼女の事が気になって戻ってきたのだろうが、クォンデルは、その男を黙って見つめ、PRCに乗り込み、ゴブリックを起動させた。
そのまま、ゴブリックの巨体で、その男を踏みつぶした。
これで彼女の仇を――
とは思わなかった。
何の感情も湧いてこなかった。
ただ、涙だけが止めどなく流れていった。
その男を殺しても彼女は戻って来ない。
それは解っているけど、その男を生かしてはおけなかった。
罪を憎んで人を憎まずという言葉を聞いた事がある。
だけど、聖人君子でもないクォンデルにとってはそんな言葉はクソ喰らえという感じで受け取った。
その男はクォンデルの全てを壊した。
だから、復讐した。
そう思った。
彼女であれば、そんなことは間違っていると言うかも知れない。
だけど、正気を保つには、こうするしかなかった。
「……うっ……うっ……うぉ……おぉぉ……」
突然悲しくなる。
また、間違えた。
何度間違えるのだろう、自分は――
間違えて間違えて間違え倒す――
彼の人生はその繰り返しだ。
レェバを殺した男が見つからなかったら、クォンデルは復讐鬼と化して、九眼(くまなこ)になって探すだろう。
だが、仇はあっさり見つかってしまった。
それも、ゴブリックのお陰で、あっさりと決着がついてしまった。
生きる糧を無くしたクォンデルには虚しさが残った。
次に何をしたら良い?
何をやったら良い?
その答えが全く見つからない。
レェバと一緒の時はあれだけ、色々見つかったのに――
今は何をやったら良いのか解らない。
何もする気持ちが起きない。
虚しい―――――――……
虚しい――――――……
虚しい―――――……
虚しい――――……
虚しい―――……
虚しい――……
虚しい―……
廃人の様に呆然となるクォンデル。
初めての大きな挫折だった。
クォンデルはそのままゴブリックで近くの山などを破壊して、暴れ回った。
正義のためではない。
自分の癇癪を自然破壊で発散したのだ。
やがて、虚しさがたまりにたまり、その場を逃げ出した。
レェバとの成長が嘘の様に、元の情けないクォンデルに戻った。
それからのクォンデルは荒れていた。
ろくに飲めもしない酒をあおり、吐いてはまた飲んで歩くといった生活を続けていた。
すぐに身体を壊し、近くの病院に入院した。
強制的に、ゴブリックと引き離される事になった。
赤ゴブリックは放置されたままとなった。
政府関係者以外、誰も、ゴブリックの操作方法は解らないし、赤ゴブリックはカスタマイズにより、セキュリティーコードを必要としているので、誰も動かす事が出来なかった。
何日か経ち、入院費を持っていない事がばれて、病院を追い出されたクォンデルはトボトボとゴブリックの元に戻ってきた。
セキュリティーコードを入力し、PRCに乗り込み、ゴブリックとドッキングする。
もう、この星に居たくない。
居ても辛いだけ。
どこか遠い星に行こう。
クォンデルはそう思った。
そんな投げやりな彼を待っていた存在が居た。
「神様……ちっちゃくなったけど、私だよ……」
その声はクォンデルが求めていたものだった。
その声の主、レェバのものに相違なかった。
だが、彼女は死んだ筈である。
では、何故?
その答えは、ゴブリックにあった。
ゴブリックにレェバの遺体を取り込んだのだが、実はまだ、彼女は仮死状態で完全に死んだ訳では無かった。
とは言え、元のサイズでの復活は既に不可能となっていたので、ゴブリックの中でストマとツクの要素が何とか彼女を生かしたいと動きだし、彼女の身体を再構成した。
それにより、サイズは大体、クォンデルの肘から指先までくらいに縮まってしまってはいるものの、生命体として、再生する事が出来たのだ。
サイズが小さいから、もう、彼女と肉体関係を持つことは出来ないが、それでも生きていてくれた事がたまらなく嬉しかった。
「ほんとに……ホントに、レェバなのか?」
涙目になって確認するクォンデル。
レェバは、
「心配かけてごめんなさい。でも、レェバです。別の生命体になっちゃったけど、間違いなくレェバです、神様」
と答えてくれた。
クォンデルは、
「――神様なんて言うな、俺はお前を守り切れなかった。……危うく殺されてしまう所だった。だから、神なんかじゃない。クォンデルと呼んでくれ。俺の名前はクォンデルだ」 と言った。
「……はい……クォンデル様……」
「様もいらないよ……」
「様はいりますよ」
「いらない」
「いります」
「……どっちでもいいや、お前が生きて居てくれたんだから……」
「はい、クォンデル様」
相変わらず、失敗ばかりの人生を歩んでいるクォンデルだったが、ここに小さな希望が出てきた。
本当に小さい希望だけど、クォンデルは首の皮一枚つながった。
だが、この惑星ボイルではクォンデルは殺人を犯してしまっている。
刺客達はもちろん、レェバを殺害しようとした暴漢も殺害してしまっている。
このままではクォンデルは殺人鬼と一緒だ。
戦争ではない。
個人的な感情で殺害を犯したのだ。
もう、彼は人としての人生を謳歌する事は出来ない。
彷徨い、迷い、落ち込み、失敗し、また、次の希望にすがって、旅を続けるしか無かった。
だけど、愛するレェバは存命していた。
それだけでもありがたい。
クォンデルとレェバは、居られなくなった惑星ボイルを離れる決意をした。
言い方が悪いかも知れないが、この星には未練は無い。
次なる新天地を求めて、クォンデルはレェバを肩に乗せ、ゴブリックを動かした。
かなりカスタマイズしているので、以前には無かった、飛翔機能も今の赤ゴブリックにはついている。
「……行こうか……」
「はい……」
二人は次なる星を目指して、ゴブリックを飛翔させた。
クォンデルの人生には人の不幸が踏み台となっている。
だから、幸せにはならないかも知れない……。
それでも明日の希望を求めて、前に進むのだった。
続く。
登場キャラクター説明
001 クォンデル・ラッシュアワーダ

この物語の主人公。
享年34才。
生まれ変わり17才の肉体と34才の知能に加えて、僅かではあるが芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)の思考能力をレリラルに強引に植え付けられた。
生まれ変わる前の若い頃、勉強だけは出来たが、応用力は無く、勉強の面でも上には上がいる事を知り、その後挫折。
就職しては転職を繰り返し、最後はこそ泥にまで身を落とす。
悪いのは全部、世の中という後ろ向きな考えと、何もない所から活路を見いだせる吟侍の考えがぶつかり常に頭を悩ませるようになる。
レリラルによる能力変換効果をうけて巨獣徒(きょじゅうと)という巨大生物兵器を動かせるようになる。
エルフェリアという謎の巨獣徒を追っていく事になる。
様々な出逢いを経験し、人間としても少しずつ成長していく。
002 芦柄 吟侍(あしがら ぎんじ)

ファーブラ・フィクタの主人公であり、最強の化獣クアンスティータに唯一対抗出来る力を持っているとされている少年。
対クアンスティータの切り札として、マカフシギ四姉妹の長女レリラルに目をつけられている。
そのため、彼の情報を調べて、その情報をクォンデルに移したが、ほんの僅かな情報しか移せなかった。
化獣同様に解析不能の存在。
本編の主人公、クォンデルとは真逆の考え方を持っていて、彼の心に住む部分が強く反発して苦しめるが、その反対意見に従うと成功したりする事の方が多い。
003 ゴブリック(ZAC-O-Goblick)

4、50メートルもある巨体を持つ生物兵器、巨獣徒(きょじゅうと)の一体。
巨獣徒の中では最低ランクであるGランクに位置するためクォンデルに雑魚扱いを受けるが、とても雑魚とは思えない程の力を示す。
雑魚というより、その辺の物語では間違いなくラスボスクラスの破壊能力を持っている。
元々、星内での戦闘用ではなく、巨獣徒での戦いは宇宙空間の超空洞ボイドあたりで戦うのがマナーとされている。
最も弱い巨獣徒だが、最も多くの戦績を残しているのもこのゴブリックである。
ゴブリックを笑うものはゴブリックに泣くという言葉も存在する。
ゴブリックにもいくつかタイプがあり、クォンデルが操るのは赤い目玉のファイヤータイプ。
クォンデルが所有しているのは赤い眼のゴブリックであり、火の属性を持っている。
カスタマイズがしやすい使い勝手の良い兵器である。
004 レェバ

惑星ボイルのレストランで出会った少女。
三重音声のように聞こえるボイル語を話す事が上手く行かず、迫害を受けていた。
そんな中でもストマとツクという現地人の家族がいたからやってこれたが、二人は瀕死となり、ゴブリックの中に吸収されてしまう。
彼女自身も暴行に合い、仮死状態になるが、クォンデルの肘から指先くらいの大きさで別の生命体として復活する。
クォンデルの事を【神様】と呼んでいたが以降【クォンデル様】に改める。
クォンデルを神の様に思っている。
以降、共に冒険をしていく事になる。